新潟県の加茂暁星高校の野球部でマネジャーをしていた女子生徒(16)が練習直後に倒れ、今月5日に死亡した。家族によると、生徒は倒れた時に心室細動を発症していた。自動体外式除細動器(AED)を使えば、救える可能性がある症状だ。AEDの設置が広がっても突然死が後を絶たない背景には、AEDの性能についての理解が深まっていないことや、卒倒などの場面に遭遇すると、落ち着いて使いこなせない実態がある。



■認知度低い「死戦期呼吸」

 「AEDを使ってほしかった。助かったかもしれないと思うと、つらくて悔しい」。生徒の父親(42)は朝日新聞の取材に苦しい胸の内を語った。明るくて面倒見のいい性格。部活が大好きだったという。

 生徒は7月21日午後、練習があった野球場から学校まで約3・5キロを走った後に倒れた。野球部の監督は「呼吸はある」と判断し、AEDを使わずに救急車の到着を待った。

 しかし、その呼吸は、「死戦期呼吸」というものだった可能性がある。心停止の状態になっても、下あごだけが動いたり、しゃくり上げるようなしぐさをしたりして、呼吸をしているように見えることがある。生徒が搬送された新潟市内の病院の医師は「心室細動が起きていた」と生徒の家族に説明したという。

 AEDは、心臓がけいれんしたような状態(心室細動)になり、血液を送り出せなくなっている状態を、電気ショックを与えて正常なリズムに戻すための機器だ。校内のAEDは、生徒が倒れた玄関に近い事務室の前など計3カ所あった。加茂署によると、病院に運ばれた生徒は今月5日、低酸素脳症で死亡した。

 日本救急医学会指導医の太田祥一医師は「死戦期呼吸と普通の呼吸とを見分けるのは、一般市民には難しい」と指摘する。死戦期呼吸の認知度が低いことも、AEDでの素早い処置に思いが至らない要因の一つとみる。

 日本AED財団によると、心臓が原因の突然死は国内で年間約7万人。倒れる瞬間を他の人が目撃した中で、AEDによる電気ショックが行われたのは4・5%にとどまる。「呼吸をしているように見えた」など、心停止かどうかの判断に迷うケースが多いとみられている。

 同財団の理事で、東京慈恵会医科大学救急医学講座の武田聡主任教授は「AEDは、電気ショックの必要性を自動的に判断する。人間が見極める必要はなく、呼吸がない、または呼吸の有無に迷ったら、胸骨圧迫を始め、AEDを使ってほしい。正常な人にAEDを付けても、電気ショックは行われないし、体に害を及ぼすこともない」と話す。

 学校での心停止は、倒れるのに出くわす人がいる場合がほとんど。武田主任教授は「AEDで救命できる可能性も高い」という。

■AED「1分1秒でも早く」

 「心臓がけいれんしている状態の時だけ電気ショックが流れます。必要なければ流れません」。今月10日、新発田消防署(新発田市)で行われた一般向けの救命講習で、救急救命士の松田史さん(41)が受講者に強調した。

 こうした講習会は各地の消防署で行われており、救命処置の方法やAEDの機能を順を追って説明していく。倒れた人がいたら、まずは呼吸をみる。判断に迷う場合は、普段通りの呼吸がない心停止と考え、すぐに胸骨圧迫と人工呼吸。AEDは、ふたを開けたり電源を入れたりすると音声ガイドが流れるので、それに従って操作する――。

 この日の講習には14人が参加。高齢者施設で働く緒形清美さん(54)は「お年寄りが多く、いつ何が起きるか分からない。AEDを使えるかどうかで生死が決まると思って参加した」。音声ガイドに従えば使いこなせると感じた一方、「夜勤は職員が少なく、1人で判断しなければならない時もある。講習のことが頭に浮かべばいいけれど、気が動転してしまうかも」と不安も口にした。

 加茂暁星高校によると、数年前に教員向けの講習会を実施。2年前には防災訓練の一環で、全校生徒を対象に消防団員による実演を見せたという。飯沼和男校長は「改めてAEDの使い方を徹底し、研修も実施したい」と話す。

 松田さんは「AEDで蘇生する人は何人もいる。若い人でも、野球のボールや空手の突きが胸に当たって心停止することもある。現場はパニック状態で騒然となっていることが多いが、1分でも1秒でも早く、勇気を持って使ってほしい」と話した。(田中奏子、加藤あず佐)

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 〈学校での突然死とAEDの設置〉 独立行政法人日本スポーツ振興センター災害共済給付データによると、「突然死」(意識不明などのまま発症から相当期間を経て死亡したものも含む)は、全国の保育所から高校までの学校で、1999年度~2008年度の10年間に計567件あった。このうち7割以上が心臓系疾患によるものだった。中・高校での突然死のうち、7割弱は運動中や運動後に起きた。

 学校でのAEDの設置を国は義務づけていない。だが、文部科学省の15年度の調査によると、AEDを設置済みまたは予定しているのが、全国の小・中学校で99・9%、高校で99・7%。全ての教職員を対象とした応急手当ての講習が行われている高校は、6割弱にとどまった。