NHKが2019年の本格開始を目指すインターネットでの番組同時配信。料金負担などを検討するNHKの諮問機関が出した答申をめぐり、民放などから反発する声が相次いでいる。同時配信の必要性より負担の議論が先行する形になったためだ。答申を受け近く考えを示すNHK側にも、開始時期などについて慎重な発言が目立ち始めた。

 NHKが初めて、本格開始の時期について意向を示したのは昨年12月、総務省の有識者会議。籾井勝人前会長時代だ。

 上田良一会長は就任間もない今年2月、諮問機関として受信料制度等検討委員会を設置。「通信と放送の融合という大きな変革の中で早急に対応することが課題。その第一手」と会見で述べた。若い世代のテレビ離れが進む中、20年東京五輪・パラリンピックを機にスマートフォンなどで手軽に見られる環境を整えるため、「前年の実現」が目標となる。NHKの独断ではなく、有識者の意見も取り入れた形で議論を進める狙いがあった。

 法律や会計などが専門の委員5人と弁護士1人が参加。テーマを「同時配信の負担」「公平負担の徹底」「受信料体系」に分け、9月まで13回にわたって議論を重ねた。

 NHKは、特に「同時配信の負担のあり方」に関していち早い答申を求めた。18年度からの3カ年経営計画の本格的な検討が今夏に予定されており、答申を参考にするためだった。

 6月27日に出た答申案。放送受信契約を結ばずネットだけで視聴する世帯に対し、新たな費用負担を求める内容が盛り込まれた。受信料を払ってテレビで見る人との公平性を保つことを理由に挙げた。料金については「なるべく放送の受信料と差をつけないことが望ましい」とした。

 この案が示されたころから、同時配信をめぐる議論に急ブレーキがかかる。

■「本来業務」発言に批判

 答申案への意見募集を始めると、批判が噴出。特に同業の民放から集中した。「19年開始という結論ありきではなく、国民からの幅広い理解を得るための丁寧な説明を要望する」(日本テレビ)、「十分なニーズの存在の検証、開始時期について議論が尽くされていない」(毎日放送)などとキー局だけでなく、地方局からも意見が寄せられた。

 メディア関連を除く個人・団体からも賛否さまざまな意見が約1300件に上り、中にはネットに接続する端末を持つだけで契約義務づけとならないか懸念する声もあった。

 問題発言が追い打ちをかける。7月4日の総務省の有識者会議で、坂本忠宣専務理事が同時配信について「将来的には本来業務とさせていただければと考えている」と述べた。NHKは同時配信を放送法で制限され、ネット活用は「補完業務」との位置づけだ。民放側が激しく反発した。

 TBSの武田信二社長は定例会見で「放送と同等の本来業務と言い切ったことに大変な違和感を感じる」と批判。上田会長は会見などで「放送が太い幹」などと釈明に追われた。

 だが結局、7月25日の答申は案をなぞる内容に。「別料金を取ると(NHKは)ますます肥大化する。歯止めをかけないと」(宮内正喜・フジテレビ社長)など批判はやまず、旗振り役だった総務省高市早苗大臣(当時)からも、「現時点で速やかに改正するべきだとは思わない」と、同時配信に必要な放送法改正に後ろ向きな発言が出た。

 民放幹部は「時代の流れで同時配信はやらざるを得ない。ただ、NHKは権利処理などの課題をすっ飛ばして、先走っている」。別の局の幹部は「潤沢な資金力を背景に肥大化していることにもともと不信感がある。本来業務と言い出して火に油を注いだ」と話す。

 NHK側も、最近は低姿勢を意識しているようだ。石原進経営委員長は8月29日、記者団に「(合意形成のため)手続きを真摯(しんし)に行うことで19年の本格実施は間に合わないかもしれないが、しょうがない」。この発言を受け、上田会長は9月7日の定例会見で「認識は全く同じだ」と述べた。(小峰健二

■新聞協会「公共メディアの姿見えず」

 日本新聞協会のメディア開発委員会は13日、12日までに示されたNHKの受信料制度等検討委員会の答申について、「NHKが目指す新たな『公共メディア』の姿がみえてこない」とし、同時配信実施の「お墨付き」にすべきではない、とする見解を示した。

 見解では、上田会長が同時配信の負担のあり方にしぼって諮問したため「公共メディア」の具体像と新たな受信料制度についての記述が欠けていると指摘。NHKに具体案を示すように求めた。

 また、同時配信は今後も放送の補完であるべきだとした上で、「本来業務と位置付けるのであれば、受信料で同時配信の費用をまかなうことも可能となり、受信料の性格は大きく変わる」と指摘。同時配信にかかる権利処理費や運営費は国民負担になるとし、「実施には厳しいコスト管理が不可欠だが、答申にはそうした視点がない」と批判した。

 「公平負担の徹底」「受信料体系」の答申についても、「居住情報の利活用」などの収納についての技術的な答申にとどめられ、新たな公平負担の大枠を示していないと指摘した。

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〈「同時配信の負担のあり方」の答申概要〉テレビを持たずにネットだけで番組を視聴する世帯に対し、料金負担を求める。具体的には、スマホやパソコンに専用のアプリをダウンロードするなど同時配信の視聴手続きをとった場合、受信料(地上契約月額1260円=口座・クレジット払い)と同程度の負担が妥当とした。視聴者・国民の理解を得るため一定期間無料にするなど暫定措置の検討も必要だとしている。